常識を覆すクラフトコーラ
クラフトコーラというものは、個人で楽しむ分にはとても簡単に作ることができます。しかし、それを詰めて販売しようとするとなると、途端にハードルが上がります。詳しくは、私がデイリー新潮で前に書いたこの記事をご覧いただければと思いますが、製造の難易度は「シロップ瓶<RTD(すぐ飲める)瓶<ペットボトル<缶」の順で上がっていきます。
そのため、多くのクラフトコーラメーカは製造を専門とする企業に委託をしています。中にはシロップ瓶の製造なら自社工房で行っていることもありますが、RTD瓶以上のクラフトコーラの製造を自前の設備で行っている例は、現在私の知る限り存在しません。個人レベルの小規模で営まれていることも多いクラフトコーラメーカーに、リスクも高い莫大な設備投資は非常に難しく、製造を委託し分業することが現状は妥当なのです。
UMAMI COLAの缶と化粧箱
しかし、そんな業界の当たり前を、まさに覆そうとしているメーカーが存在します。その名は「UMAMI COLA株式会社」。最も難易度の高い缶のクラフトコーラを、新設した自社工場で自社製造しています。同社では、現在の清涼飲料水には当たり前に入っている「酸味料・香料・着色料」などの食品添加物を一切使用せず、すべて天然の材料だけを使用しています。
それだけでも驚くべきですが、なんとこの度、健康志向の商品を扱うコンビニエンスストア「ナチュラルローソン」で販売されるとのことです。作るのに手間暇の掛かるクラフトコーラを、今まさに大量に流通させようとしています。
そもそも、このような作り方の缶飲料はこれまで例がなく、クラフトコーラ業界ひいては清涼飲料水業界にとってもエポックメーキングな出来事といっても過言ではありません。今回私は実際にUMAMI COLAの工場を訪れ、このクラフトコーラのみが持つ「意義」について取材をして参りました。
※UMAMI COLAにつきましては、過去の記事で纏めておりますので、そちらをご覧ください。
新工場訪問
というわけで、埼玉県戸田市にあるUMAMI COLAの工場へと向かいました。この辺一帯には工業系の事業所も多く、こちらの建物も鉄骨二階建て。ちなみに施設の正式名称は「UMAMI COLA La Fabrica」となります。1階の搬入口のシャッターがいかにも工場という感じです。
通用口の扉には、同社のロゴが据えられています。UMAMI COLAはシロップ瓶で永らく販売されていましたが、缶の発売に伴いデザインが刷新されました。この新たなロゴは世界的に有名なグラフィックデザイナーである木住野彰悟氏が手掛けられています。ところどころアルファベットが繋がったデザインがとても美しいですね。
通用口を開けると、UMAMI COLA代表の山田さんが出迎えてくださいました。
【今回取材させていただいた方】
山田 貴久 (やまだ・たかひさ)
UMAMI COLA株式会社 代表取締役社長。国際クラフトコーラ連盟(FICA)理事長。過去コーヒー、パンケーキ、ITの分野で経営者として活躍。スターバックス国内1号店の立ち上げにも関わる。現在はクラフトコーラの地位向上に尽力中。ちなみにこのCola Fanも運営元はUMAMI COLA。
缶クラフトコーラができるまで
――今回一番驚いたのは、この工場で調合から原液の製造、缶への充填まですべて行える点です。せっかくですから、はじめに工場で行われる一連の流れを教えてください。
山田さん:まず、UMAMI COLAを作るための様々な材料が方々からトラックで運ばれてきます。それらは1階の搬入口でフォークリフトで降ろされ、材料によって保管場所が分かれていきます。充填設備が1階にあるため、缶や梱包用の資材は1階でそのまま保管します。
トラックから降ろされたUMAMI COLAの缶
調合室や製造室は2階にあるため、きび砂糖やスパイス類等の食材はハンドリフトとエレベーターを使用し、パレット積みのまま2階へと運びます。その中でも米麹やシークワーサー果汁は冷凍でやって来るため、冷凍庫にて保管します。
大量の米麹による重さで、業務用冷蔵庫の内部はひしゃげてしまっている
そして調合室で食材の計量や下ごしらえを行い、製造室の大鍋で煮詰めて原液シロップにしていきます。一回に煮詰める原液シロップの量は、缶のUMAMI COLAで約5000本分となります。
寸胴鍋に入れられた、缶5000本分の原液を作るのに必要なスパイス群
カルダモン・シナモン・クローブ、花椒、ホーリーバジルなど
シロップが出来上がったら1階へと運び、水と炭酸を充填して缶に蓋をします。そのあと検品を行い問題なければ完成となり、箱へと詰めてトラックで発送されます。大まかな流れはこのようになります。
缶への充填設備
完成した缶のUMAMI COLA。天然の材料が沈殿してしまうため、
飲む際に攪拌してもらうためという意味もあり、あえてラベルを逆さまに印刷している
缶UMAMI COLAのこだわり
――缶の製造にあたり、一番こだわった点はどこですか?
山田さん:原材料には徹底的にこだわりました。ラベルの原材料の部分を見ていただければ、それは一目瞭然だと思います。
天然の材料で構成された原材料名群
UMAMI COLAは香味や色について、全て本物の材料から引き出しています。もしこの記事を読まれている方で、お近くに缶やペットボトルの炭酸飲料がある場合は、ぜひラベルの部分をご覧になってください。コーラ系飲料の場合は大抵の場合、「砂糖・果糖ぶどう糖液糖・炭酸・酸味料・カラメル色素・香料・カフェイン」が全部ないし一部入っているはずです。
炭酸飲料に関わらず、現代の清涼飲料水は大なり小なり食品添加物に頼っています。果汁100%の飲料ですら香料で調整がなされているものも多いです。また、私が良く飲んでいる市販のジンジャーエールには生姜が入っていません。現代の清涼飲料水は、本当に何を飲んでいるのか解らなくなるものばかりです。
例えば生姜だけとってみても、UMAMI COLAでは高知県産の「黄金(こがね)生姜」という品種のものを使用しています。乾燥したパウダー状のものも販売されていますが、弊社では”生”のものを仕入れ、ミキサーですり潰したものを使用しています。同じ黄金生姜でもパウダー状のものなら日持ちもするし使いやすいです。しかし、香りが全然違います。
スパイス類に関しましても、良いものを厳選して使用しています。クラフトコーラでは「どんなスパイスを使用しているか」が注目されるため、ついつい見落とされがちですが、「どのような品質のスパイスを使用しているか」も、もちろん重要な要素です。
例えば弊社で使用しているカルダモンは、粒が大きく揃っている香りのよいものを厳選して仕入れています。他のスパイスも同様です。こういった各素材へのこだわりが、実際に完成されたクラフトコーラ全体の味わいに大きく影響するのです。
また、UMAMI COLAの味わいの中核をなす”米麹”に関しては、新潟の地酒の代表「八海山」の販売元の八海醸造さんに、UMAMI COLA専用のものを造っていただいています。
――本当にこだわり抜いた無添加のクラフトコーラなんですね。
山田さん:厳密にいうと炭酸飲料に使用する「二酸化炭素」が食品添加物に該当するので、完全な無添加とはいえません。シロップ瓶で販売しているものは「完全無添加」を謳っているのですが、このような理由から缶のものでは謳っていません。もちろん炭酸を除けば完全無添加です。せっかくこだわり抜いて産まれた自慢のコーラに、食品添加物で調整をかけるなんて真似したくないですからね笑。
ここまで食品添加物につきましてあれこれ言ってきましたが、私自身も市販の清涼飲料水は美味しく飲んでいますし、食品添加物の使用を全く否定するわけではありません。ただ、私自身が作る場合はこの点は徹底してこだわりたかった、譲れない部分なのです。
こだわりと手軽さの両立
シロップ瓶タイプのUMAMI COLA
今回、UMAMI COLA La Fabricaを取材し感じたことは、こだわりと手軽さの両立がいかに難しいことであるかということです。UMAMI COLAの山田さんも国内の様々な製造会社に問い合わせ交渉をしたそうなのですが、自分が本当に作りたい缶のクラフトコーラを請け負ってくれる会社は国内には存在しないという結論に達し、自分で工場を設立されました。
それだけ現代の清涼飲料水の製造が食品添加物の使用を大前提としたものであり、そこから外れた作り方をすることが如何に困難なことであるかが、ご覧になっている皆様にもご理解いただけたかと思います。
ナチュラルローソンでの発売は2024年5月28日からとなります。皆様も是非見かけたらお手にとっていただき、クラフトコーラの一つの到達点を味わってみてください。
【UMAMI COLA 諸情報】
<住所>
【本社】〒107-0062 東京都港区南青山2-2-15
【工場】〒335-0034 埼玉県戸田市笹目7-11-10 UMAMI COLA La Fabrica
<HP>
https://umamicola.com/
<X>
https://x.com/UMAMICOLA
<Instagram>
https://www.instagram.com/umamicola/
山田様よりご提供いただきましたプロフィール用の写真を除き、画像はすべて筆者が撮影したものです。