自身の強みが生きる飲み物
現在様々な飲食店からクラフトコーラが登場していますが、とりわけ”スパイスカレー屋さん”から登場する例が多々あります。クラフトコーラとカレーに使用するスパイスに共通するものが多いというのも理由の一つですが、何より自身がカレーで培ってきたスパイスに対するノウハウを活かすことができるということもあります。
今回は福岡県福岡市南区大橋にある本格スパイスカレーのお店「MIDORI STORE(ミドリストア)」さんにお邪魔し、インタビューをさせていただきながら、美味しいカレーとクラフトコーラをお腹いっぱい食べてきました!
竹島 隆志(たけしま・たかし)
2021年末に弟の竹島大樹さんと共にMIDORI STOREを開店。2023年1月にインド・ナーグプルへ修行に行き、日本初のSaoji公認アンバサダーに任命される。
お忙しい中で取材を快くお引き受け頂き、この場をお借り致しまして改めてお礼申し上げます。
兄弟の力を合わせた「兄弟薬膳カレー」
竹島隆志さんと竹島大樹さん
――隆志さんは元々会社員だったようですが、お店を始められたきっかけは何ですか?
隆志さん:元々、ここ15年位は弟の大樹がイタリアンをやっていました。しかし2020年10月に大樹が脳出血で倒れ、右半身麻痺になってしまいました。当時の私は飲食とは関係ない、営業の仕事をしていました。
ただ、倒れる前から弟自身でカレーの研究をしていて、「いつかランチでカレーの専門店をしたいな」という話はあったんです。私も当時たまたまスパイスの研究をしていて、じゃあそれぞれ好きだったカレーをあいがけにして、カレー屋として社会復帰をしていこうという話になりました。こうして生まれたのがMIDORI STOREであり、「兄弟薬膳カレー」なのです。
MIDORI STOREの主力メニュー「兄弟薬膳カレー」
兄弟薬膳カレーは、左側が大樹さんの手掛けるフェニックスチキンカレーで、右側が隆志さんの手掛けるSaojiカレー(後述します)となっています。フェニックスチキンカレーの方は、よく煮込まれた鶏の旨味が口の中に広がるジューシーな味わいで、スパイスのバランスも良くバスマティライスが非常に進みます!
Saojiカレーの方は、エキゾチックな味わいをより強く感じます。中に入る具材も日によって変わるらしく、本日は「モモ」よ呼ばれるネパールの餃子が入っていました。カレーの中に餃子を入れるという発想自体私にはありませんでしたが、これが結構合います!
マサラコーク
また、兄弟薬膳カレーは「マサラコーク」と一緒に頂きました。マサラコークとはインド全土で夏に飲まれる清涼飲料水で、コカ・コーラに色々なスパイス(チャットマサラ)を入れて飲むというものです。
スパイスは全体的に硫黄のような香りがして、これが不思議と癖になるような美味しさ。スパイシーでありながらコカ・コーラの爽やかさも充分に残っており、スパイスカレーとの相性がとても良いですね。後でもう一度注文してしまいました笑。
インド・ナーグプルの料理”Saoji”
続いて、隆志さん自慢のSaoji(サオジ)セットを頂くことにしました。Saojiとはインドの中西部Nagpur(ナーグプル)の料理で、野菜主体のものもありますが基本的に肉系が多いのだそう。オイリーで非常に辛く、とても香り高い独特のスパイス配合が特徴だといいます。
Saojiセット
Saojiには大きなチキンがゴロゴロと入っており、他にはジーラ(クミン)ライスとロティ、輪切りにした玉ねぎと、カットレモンが大皿に載せられています。Saojiの具材はチキンの他に、海老や山羊などもあるそう。
とにかくオイリーなカレーですが油は非常に良いものを使っており、翌日私は全く胃もたれしませんでした。辛さは日本人の口に合うように調整がされていますが、それでも私には結構辛かったです笑。現地の辛さにすることも可能とのことでしたので、辛いものが得意な方はぜひ挑戦されてみてください!
手食でいただく
また、MIDORI STOREさんではSaojiを食べる際には「手食」を推奨しているようで、私も素手でいただきました。その昔インドに2カ月程居たことがあるのでカレーの手食は初めてではありませんでしたが、日本では初めてですね。手を汚さずキレイに食べるのは結構難しいですが、スプーンよりこちらの方が「ものを食べている」という実感があります。
さて、Saojiというのは日本ではマイナーなインド料理であり、お店で出しているのはここMIDORI STOREさんくらいしかありません。そして隆志さんは今年の1月にSaojiの本場「ナーグプル」へ行き修行をし、味を更に磨いています。なぜ隆志さんはここまでSaojiに魅了されたのでしょうか?
隆志さん:海外のレシピサイトで偶然見つけ、作ってみたら凄い美味しかったという体験が、Saojiとの最初の出会いです。Saojiの特徴は「オイリーでスパイシー」。北インドとかパキスタンとかのカレーの特徴と凄く似ているんですね。
私は元々パキスタンの方のカレーがすごく好きだったんですが、福岡にはパキスタンカレーの名店があるんですよ。同じことやっても仕方ないなと思って、私はSaojiを極めていこうと思いました。
インド・ナーグプルにある仏教の聖地「ディークシャーブーミ」
その後もインスタでハッシュタグをつけて発信していたんですが、ある日ナーグプルの現地の人に「日本の聞いたこともないような町でSaoji作ってる奴がいるぞ」とシェアしていただきました。基本的には現地でしか作られていないものですから、珍しかったんでしょうね。
その方とは友達になり、現地からスパイスを送って下さったりとか、色々と親切にして下さいました。また、「いつかそちらに修行に行きたい」と話したら「うちにゲストルームがあるからいつでもおいでよ」という感じで受け入れて下さり、色々なご縁やタイミングもあって、今年1月にナーグプルへ修行に行ってきました。
ナーグプルで修行中の隆志さん
滞在中は先程お話した友達のインド人の家にお世話になったんですが、実は大変な富豪だったんです。家にお手伝いさんが10人くらいいたり、空港まで運転手さんが迎えにきてくれたりと、凄かった。セレブや芸能人が集まるパーティーにも連れて行ってくれたんですが、会場に日本人のカレー屋が紛れているという不思議な状況になりました笑。
修行に行く前は、現地の知り合いに料理を教えてもらったり、レストランにお願いして厨房を見学したりできる程度かなあ、と思っていたんです。しかし、その友達の取り計らいで大きなレストランでガッツリ働かせて貰ったので、すごく良い経験になりました。そして最終的に現地と同じ味だというお墨付きをもらい、Saoji公認アンバサダーとして日本に帰国しました。
Saoji公認アンバサダーの証
クラフトコーラについて
今回、Saojiと一緒に自家製クラフトコーラをいただきましたが、正式名称は「薬膳オリエンタルコーラ」といいます。きび砂糖ベースのシロップはとてもやさしい味で、余韻に微かに残るスパイス感も丁度良く、口の中に溜まったSaojiの辛さやオイリーさをサッパリと洗い流してくれるような感じです。
――クラフトコーラを開発するきっかけは何でしたか?
隆志さん:私は飲食店経験がなかったため、このお店を始める時には物販にも力を入れてやっていきたいという想いがありました。その時に考え付いたのが「冷凍のカレー」と「クラフトコーラ」でした。クラフトコーラに関しては清涼飲料水製造許可を取得し、シロップを瓶詰で販売をしています。
――クラフトコーラを開発するにあたり拘ったところはありますか?
隆志さん:スパイスの配合に特に力を入れています。どういうスパイスを使えば香りが高くなるかや、スパイスの抽出温度、入れる順序等ですね。カレーを作る時も一緒なんですけれど、入れるタイミングによって香りの階層が変化するんです。最初にどの香りがくるのかとか、そういったところを意識して作るようにしました。
――クラフトコーラの周囲の感想や評判はいかがですか?
隆志さん:すごく良かったですね。オープンした時からシロップ瓶で売っていましたが、色々な方に美味しいという評価を頂きました。また現在は嬉しいことに、製造が追い付かない感じになっています!
薬膳オリエンタルコーラのシロップ瓶
――コーラが「コーラ」であるために、重要な要素というのは何だと思われますか?
隆志さん:クラフトコーラに関して言えば、私は柑橘系のスパイスかなと思っています。カルダモン、もしくはコリアンダーとクローブ。スターアニスもアリですね。これらはクラフトコーラを連想しやすい香りだと思っています。
――コカ・コーラやペプシコーラの様な、大手企業系のコーラは飲まれますか?
隆志さん:マサラコークをメニューにも出している通り、結構飲みますよ!
――今のクラフトコーラ業界に関して抱いているイメージをお聞かせください
隆志さん:うちのお店はカレーもしながらクラフトコーラを作るという二足の草鞋ですが、クラフトコーラのメーカーの中ではコーラだけをやられている方もいて尊敬しています。発展もしている業界だし、クールで凄いなあと思いながら、乗っからしていただいている思いです笑。
スパイスカレーもクラフトコーラも、スパイスを扱うという点では共通してはいますが、扱い方は違うので勉強になります。また、どこのメーカーさんも拘っていると思いますが、その拘りへのアプローチの仕方が色々あって楽しいと感じています。
兄弟の夢と想いが紡がれる場所
MIDORI STORE 店舗外観
お店を開店する前、竹島兄弟は「人の役に立つ仕事を続けたい」という目標を立てたそうです。”飲食店はもう無理かもしれない”と心のどこかで思いながらも、それでもチャレンジしました。そして現在、MIDORI STOREさんはとても繁盛しています。お店での営業も勿論ですが、カレーのお弁当を周辺のお店に卸したり、土日にはお祭りやフェス等のイベントにも出店したりと、多岐にわたって活躍されています。
また、もう一つの目標に「セントラルキッチンを作りたい」というものもあったそう。先述した通り、お店での営業の他に物販にも力を入れたいとのことでしたが、この目標もご縁があり最近叶ったそうです。セントラルキッチンは大樹さんが責任者となるようで、竹島兄弟の「スパイスに慣れ親しんで、日本人の舌に日常的になってほしい」という想いが、時が進むごとにしっかりと確実に実りをつけてきています。
来年、再来年はどのように飛躍していくのか、注目せずにはいられません。
MIDORI STORE VIPカード
最後に、MIDORI STOREさんの面白い試みを御紹介して結びとさせていただきます。上の画像はMIDORI STOREさんに5回通うと貰える「VIPカード」で、券面のデザインは隆志さんが行っています。通常、飲食店での常連さん向けのサービスとしては、料金の割引やおまけがつく等が思い浮かびますが、MIDORI STOREさんユニークなところは「食べられる料理が増える」という点にあります。
つまりこのカードを呈示すると、インド料理やSaojiの珍しい料理が食べられるのです。恐らくこのカードで食べられる料理というのは稀少なものになりますから、値段は安くなるどころか高くなるはずです。この取材の時点では、このカードのシステムを開始してから1カ月程でしたが、既に20名ほどにこのカードを発行したらしく、1カ月の間に少なくとも20名の方が5回以上来店されていることになります。
私は今回の取材が初来店でしたので勿論それは食べていませんし、どんな料理かも知りません。これをご覧になっている方はぜひ、チャレンジしてみてはいかがでしょうか!
【MIDORI STOREについて】
<住所>
〒815-0033 福岡県福岡市南区大橋2丁目11−12
<X>
https://twitter.com/MidoriStore_fuk
<Instagram>
https://www.instagram.com/midoristore_fuk/
竹島様よりご提供いただきました御兄弟で写られている写真、ナーグプル関連の写真を除き、画像はすべて筆者が撮影したものです。