“クラフトコーラ”で生きていく ~Moto Cola 代表にインタビュー~

本業、クラフトコーラ

 現在、1000種類以上のクラフトコーラが登場していますが、作り手(メーカー)の方々の状況は様々です。自分の飲食店で新たなメニューとしてクラフトコーラを提供している人、異業種からの新事業としてクラフトコーラに挑戦している人、本業が別にあって半分趣味でクラフトコーラを販売している人など、これまで私が見てきた中でも本当に色々な方がいらっしゃいます。

 そして、これだけ沢山のクラフトコーラメーカーさんが存在する中で、「クラフトコーラ”だけ”」で事業を行っているメーカーさんというのは、実は片手で数えられる程しか存在しません。今回はそんな数少ないクラフトコーラブランド「Moto Cola」さんにお話を伺い、クラフトコーラで生きていくことの現実的なお話を語っていただきました。

【インタビューを行った方】

五明 基 (ごみょう・もとい)

 MotoCola株式会社代表。大学を卒業後、紳士服販売店や外資系の営業職、造園業等を経験。その後、某コンビニチェーンで働く傍ら「Moto Cola -真紅のコーラ-」を開発。現在は会社を退職し、兵庫県伊丹市に設立した自社工房にて、同コーラの製造やOEM事業を手掛ける。奥様と4人のお子さんがいる。業界内では「もとさん」と呼ばれている。

お忙しい中で取材を快くお引き受け頂き、この場をお借り致しまして改めてお礼申し上げます。なお、Moto Colaそのものの紹介に関しましては、私が以前インタビューを受けた際の以下の記事に掲載されておりますので、併せてご覧下さると幸いです。

飲んだコーラは600種類以上。マニアが教える、おすすめクラフトコーラ3選 -JAPAN-BRAND FUN-(外部リンク)

クラフトコーラとの出会いと開発までの経緯

インタビューに答えるもとさん MotoCola自社工房内にて

――私の中では、もとさんは出会った時からクラフトコーラを作られていたので、メーカーさんのイメージが強いですが、クラフトコーラを作られる前は何をされていたんですか?

もとさん:元々は理系の大学を卒業し、某紳士服チェーンに入社しました。同業他社と激しく競争する会社の気風が、当時の僕には合っていました。その後はより多くのインセンティブが見込める、外資系の工具を売る会社で営業職を行いました。

 ただ、年月が経つうちに「土日休みの仕事がいいなあ」と思うようになってきて、その時たまたま取引先だった造園屋さんの方に「ちょっとお前おもろいからうち来いや」って言われ、そちらに転職しました。一応機械系の製図とかもできるので、CAD のスキルが外構工事などの仕事に生かせました。

 造園屋さんでは9 年ほど働きましたが、前の奥さんと離婚したのを機に退職して、今度は某コンビニチェーンで働き始めました。その後、今の奥さんと出会うのですが、その頃になると食事を自分で作るようになっていたんです。

 コーラを最初に自作した時に購入した、カリス成城のコーラナッツパウダーの袋

――その延長線上で、コーラも自分で作ってみようと思ったんですね?

もとさん:そうです。僕もコカ・コーラやペプシコーラが好きなので、コーラも自分で作れないかなと思って。それでふとネットで調べてみたら、コーラの作り方が載っていたんですよ。それを元に作ったらすごく美味しくて。そこからコーラ作りにハマっていきました。

 最初はネットのレシピ通りに作ったり既存の製品の模倣をしたりして、その中で色々と気づきがありました。そして次に、「自分のコーラをどう作ろうか」という考えになり、一年半かけてMoto Colaを開発することになりました。

Moto Colaについて

Moto Cola -真紅のコーラ-(左)と、Moto Cola ブルーエディション(右)

――Moto Colaを開発する際に、何か方針などはありましたか?

もとさん:奥さんがシナモン嫌いなので、奥さんでも飲めるコーラを作れたらなーってう風に作り始めました。奥さんは「これならシナモン入ってても気にならないし飲める」と言ってくれて、嬉しかったですね。また、実は奥さんは炭酸も好きじゃなかったんですけど、今はガブガブ飲んでいます笑

――奥さんへの愛情が開発のきっかけでもあったんですね。そういえば、ラベルの薔薇のイラストも、奥様が描かれたものだとか

もとさん:そうなんです。そしてこの薔薇の絵は、工房内に飾ってあります

工房内に飾られている、Moto Colaラベルの元になった薔薇の絵画

――おお、まさしく普段見慣れているMoto Colaのラベルそのまま!こうして実物を間近で見られるとは思っていませんでした!

もとさん:ただね、実は当時の奥さんの写真が先日出てきて、これね、上下逆なんです。上下逆なんですよ。これね、上下がね。なので、Moto Colaのラベルも実は上下逆だったんです。

もとさんの奥様が学生時代、美術部で薔薇を描いた時の写真

――あ、本当ですね。Moto Colaのラベルだと花の中心が左下にありますが、当時の写真だと右上ですね。それにしても衝撃的な事実ですね

もとさん:どうやら、奥さんのおじいさんが上下逆転して飾っていたみたいです。おじいさんは額に入れて奥さんに絵を持たせていたらしく、その後はうちの子供部屋にずっとありました。あと、後ろがもののけ姫ですよね。時代ですね笑。

――Moto Colaを開発するにあたり、拘った点やご苦労された点はありますか?

もとさん:奥さんのために作ったものとはいえ、これを販売したいなっていう想いは当初からありました。そして販売するにあたってはリアルな話、原材料費について考えなくてはなりません。お客様が満足してくれる味のレベルを見極め、その味を最低量の原材料で引き出すための探求に、約1年半ほど掛かりました

 つまり、原価をどこまで抑えて作れるかっていうのをやっていたんですよ。クラフトコーラというのはそもそも原価がとても掛かるものですから、この探求をしていなかったら、今よりずっと原価が掛かっていたと思います。そしてそのお陰で、自分が納得する味を自分が納得する価格で提供することができています。

クラフトコーラで独立することについて

工房内を清掃するもとさん

――クラフトコーラで独立しようと思ったきっかけは何ですか?

もとさん:発売直後は月100本ほど製造していましたが、2022年の春に「KinKi Kidsのブンブブーン」や「マツコの知らない世界」等の大手メディアに取り上げられたことがきっかけで、注文が沢山入るようになりました。一時期は8カ月先の販売分まで予約で埋まるような状態でした。

 その影響で、当時本業だったコンビニの仕事のクオリティが維持できなくなってきて、コーラの仕事が面白かったということもあり、コーラで独立しようと思いました。幸いテレビの影響で、それなりにお金が入ってきた時期だったので、お金のあるうちに自社工房を作っておこうと思いました。

――独立前と独立後で何か変わったことはありますか?

もとさん:月の売り上げが特に気になるようになりました。自分のコーラがどの位売れたのかはパッと計算できちゃうので、それが凄いプレッシャーで凄く不安ですね。売れなかったらどうしようとか、売れない時もあるので。また、軌道に乗っている感じも全くありません

 そして、「なんか社会からつまみ出された」みたいな感覚があります。会社勤めの頃から、僕は会社員には向いていないと思っていて、多分自分一人で何かやるのが一番なんだろうなって考えていました。今は楽になった面もありますが、しんどい部分も多くて不安ですね。

もとさんの頭部

――ただ独立してから髪は随分と派手になりましたね笑

もとさん:これはちょっと前の、去年の夏ぐらいの堂本剛さんと同じ髪型にしています。今はちょっと伸びてるんですけどね笑。元々デビューされた頃からKinKi Kidsが好きだったんで、推し活の一環ですね。有難いことに、喜んでくれるファンの方々もいらっしゃいます。

――SNSを拝見していると、Moto ColaはKinKi Kidsのファンの方々からの支持が厚いですよね。ライブとかでファンの方から声を掛けられたりとかしますか?

もとさん:最近掛けられるようになりましたね笑。鬼の格好してコンサートの前でドリンクを配ったりとかしてるので、鬼の恰好してる人がMoto Colaっていう認識をされている方もいらっしゃいます。あとはMoto Colaのジャンパーも着て行ったりするので、それを見て声を掛けて下さる方もいらっしゃいます。

家族への想い

 奥様の写真を見ながら奥様との思い出を語るもとさん

――もとさんには奥様と、お子さんが4人いらっしゃいますよね。クラフトコーラで独立された今、ご家族からはどう思われていると思いますか?

もとさん:奥さんの中ではどっかで、ちゃんと軌道に乗ってくれるだろうとなと期待してくれていると思うし、何よりMoto Colaの一番のファンだと思ってくれている筈です。ただリアルな話、実際ちょっとしんどかった時期は生活費を渡せていないこともあったんですね。

 でも、「コーラやめて働いて」とか、そういったことを言われたことは一度もないので、応援はしてくれていると思います。多分奥さんも自分の貯金を切り崩して生活をしてくれてるっていう時期があったと思うので、だいぶ苦労はかけてしまっていると思います。また、子供達は特に気にしていない様子ですね笑

――そういった話は、直接奥様やお子さんの口からあまり聞いたことがない感じですか?

もとさん:そうですね。

――それでは、実際に奥様とお子さんに登場していただき、お伺いしてみましょう!

奥 様 降 臨

もとさん:(絶句)

 改めまして、今回はサプライズで、もとさんの奥様と娘さんのお二人(ふうちゃん、りんちゃん)にお越し頂きました。本当に有難う御座います。ちなみに、ご家族の中ではもとさんは「きーくん」と呼ばれているそうです。

――もとさんがクラフトコーラで独立するという話になった時、どう思われましたか?

奥様:率直に「本気で言ってんのかな?」っていう風に驚きましたね。でも「こうやりたい」って決めたら聞かない人なので、最初は突拍子もないことと思いつつも、本気で真剣にコーラを作り出して、どんどん改善していくのを傍で見ていました。

 そして今の仕事や辞めるってことになって、「ほんまにやるんや」っていう風に思いましたね。自分自身この年になって、「あの時ああしていたら良かった」「挑戦していたら良かった」って凄く思うので、「人生一度きりなのでやってみたら」っていう風に、背中を押した感じですね。

――すごい決断ですよね。お子さんが沢山いらっしゃる中で背中を押すっていうことは、なかなかできることではないと思います

奥様:皆さんは恐らく見たことは無いと思いますが、思い通りにならない時とかに主人は弱音を吐いたり落ち込んだりすることも結構あるので、心配しかないですけどね。

――ふうちゃんとりんちゃんにお尋ねします。きーくんのコーラは美味しいですか?

ふうちゃん&りんちゃん:「おいしいー!」

――きーくんのコーラと、お店で売られているコーラ、どちらが好きですか?

ふうちゃん&りんちゃん:「きーくんのコーラ!」

――今のお父さんは、カッコいいですか?

ふうちゃん&りんちゃん:「うん!!」

後を追おうとしている人に

Moto Cola 自社工房外観

――これからクラフトコーラを商売にしていこう、クラフトコーラで独立していこうと思っている方々に、一言お願い致します

もとさん:多分作ってる人ほど解ると思うんですけれど、もともと結構原価が掛かるし、拘れば拘るほど更に原価が掛かる。これが一番難しいですよね。簡単には儲けれない仕事ですね。簡単には。

 棚に置くだけで売れるコーラっていうのは安いか、かなり強烈にインパクトがあるものかのどっちかだと思っています。本当に売れないものは売れない。売れるには、自分のこだわりを貫き通さないといけない。

 そして、きちんとお客様と商品に向き合うということ。それら全部をちゃんとやらないと、売れないのがクラフトコーラです。それができないんだったら出さない方がいい。こんなこと言ってたら、またいろいろ言われるかもしれないですけれど笑。

ご家族を横目に、インタビューは続く

もとさん:本業がクラフトコーラだけっていうのは本当に厳しいですね。一番やってほしくないのは、クラフトコーラ以外も色々やってて、別の事業で得た利益をクラフトコーラに使ってカバーするっていう形。これは特にやって欲しくないですね。

 本業の方が儲かってるから、クラフトコーラは原価掛かっててあんまり利幅ないけど。パッと売りたいがために低価格に設定しているところは大嫌いですね。正直にやっている僕らからしたら踏みにじられている感じです。本業で利益が出てるんだったら、コーラはコーラでちゃんと利益が出るような値段設定にして欲しいですね。

 多分、今はある程度の味でも売れるとは思うんですけど、その先には進めない。そう思っています。

Moto Colaの特徴的なシーリングワックスでの密栓は、もとさんが一つずつ丁寧に仕上げている

――コーラが「コーラ」であるために、重要な要素は何だと思いますか?

もとさん:コーラって、薬剤師のジョン・ペンバートンさんが始まりじゃないですか?その時もやっぱり気分を上げる薬っていう形でしたよね。時代背景はちょっとわかんないんですけれども、少し暗い時代だったと思ってて、それを和らげるため作ったんだと思います

 街に住む人たちを楽にしたい、助けたいという願いがあったと思うんですよね。だから、その思いを大事にするっていうのが、自分の中ではコーラに重要な要素だと思っています。コーラを飲んで喜んだりとか笑顔になってくれたりとか、そういうことが大切なんじゃないでしょうか。

――今のクラフトコーラ業界に対して、もとさんが持つ印象を教えて下さい

もとさん:戦国時代ですね。

インタビューを終えて

もとさんの御家族と、Cola Fanスタッフ

 クラフトコーラ業界は全体的に割と和やかなところであり、様々なメディアでもポジティブな情報が良く出ます。そして私もなるべく、読んでいて楽しくなるような内容の記事を今まで書いてきたつもりです。しかし、大変なことも勿論沢山あり、今回は敢えてこれまでとは違った、現実的な話を包み隠さず記事とさせて頂きました。

 もとさんをはじめご家族の方々には、本当に赤裸々に色々とお話していただきました。コーラに対する熱い想いや、熱いからこその拘り。そして何より、ご家族の強い絆をインタビュー中にもひしひしと感じ、私も一切気の抜けない取材でした。このような取材、もとさんにしか頼めません。本当に有難うございました。

 もとさんはOEM製造も本当に心を込めた丁寧な仕事をされています。クラフトコーラの製造委託先を探している方がいらっしゃれば、ぜひもとさんに相談してみてください。また、記事のせいで厳しそうな印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんが、本当はユーモアに溢れた人情家ですよ!

【Moto Cola 諸情報】
<住所>
〒664-0004 兵庫県 伊丹市東野3-1東側
<HP>
https://motocola.stores.jp/
<X>
https://twitter.com/MotoCola0519
<Instagram>
https://www.instagram.com/motoi134/

五明様よりご提供いただきました奥様の学生時代の写真を除き、画像はすべて筆者が撮影したものです。

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